AI時代を生き抜くWebディレクター/Webデザイナーの「人間力」
2025/07/08

目次
AIの進化が目覚ましい現代において、「WebデザイナーやWebディレクターはAIに仕事を奪われるのか?」という問いを耳にすることが増えました。確かにAIはとてもスピーディかつ効率的、そしてクリエイティブな領域においても人間を凌駕しようとする勢いです。我々も業務の中でAIを使用する場面が増えてきました。「こんな簡単に画像やデザインの例が生成されてしまうなんて、いままでの自分の学びはなんだったんだ…」と落ち込んでいるデザイナーやイラストレーターなどの話を聞くこともかなり増えてきた印象です。
しかし、私はこの問いに対し、「人間らしさを追求すれば、AI時代を生き抜くどころか、より輝ける」と断言します。
では、「人間らしさ」とは一体何でしょうか? それは、AIには決して代替できない、私たち人間にしか持ちえない強みです。
AI時代の「価値」の再定義:ファッションと食から学ぶこと
この状況は、ファッション業界で起こった変化に似ていると感じます。ユニクロに代表される「ファストファッション」は、今や私たちの生活に欠かせないものになりました。中国などの大規模工場で大量生産される服は、低コストでハイクオリティ、そしてスピーディに世界中へと流通し、誰もが気軽にファッションを楽しめる時代を築きました。
しかし一方で、資産を持つ富裕層のファッションにおける選択は、ファストファッションとは全く異なる方向を向いている場合があります。彼らは、イタリアの老舗仕立て屋に何十万、何百万円もの高額を投じます。シャツやスーツは職人の手作業で丁寧に作られ、ファストファッションのような「効率的」かつ「スピーディ」な手法とは対極にあります。手作業ゆえに、工場での大量生産では起こりえない単純な人為的ミスが発生することもあるかもしれません。
ではなぜ、非効率的で非常に時間がかかる、この「手仕事の製品」に人々は魅了され、お金をかけるのでしょうか? それは、圧倒的に高い品質と、その製品が作られるまでの「過程そのもの」に、計り知れない価値があるからです。スーツの生地選びから始まり、顧客の体型や好みについてじっくりとヒアリングを行い、熟練の職人が時間をかけて丁寧に仕立てるスーツ。そこには、単なる「服」以上の、顧客一人ひとりに寄り添うストーリーと、職人の魂が宿るのです。
同様のことは、食の分野でも見られます。なぜ、私たちは「オーガニックフード」にお金をかけるのでしょうか? 作るのに時間がかかり、虫に食われるリスクがあり、価格も一般的な食材より高価です。それでも選ばれるのは、それが「おいしく」「体に良く」「顧客が本当に求めている安心と価値」を提供しているからです。効率性や価格だけでは測れない、その背景にある作り手のこだわりや、安全性への配慮といった「過程」にこそ価値を見出す消費者がいるのです。
ホームページ制作業界にも起きている「二極化」
これと全く同じようなことが、我々ホームページ制作業界にも起こっていると強く感じています。コロナ禍によって、低単価・大量生産・低クオリティを売りにする業者(法人・個人問わず)は一気に増大しました。手軽にウェブサイトを作れる選択肢は確かに増えましたが、その一方で、真にビジネスの成果に貢献するウェブサイトを求める顧客は、量産型のサービスとは一線を画した価値を求めているのです。
AIによる自動生成やテンプレートの活用が進む中で、「早く」「安く」ウェブサイトを手に入れることは、これまで以上に容易になりました。しかし、それだけではビジネスの複雑な課題を解決し、顧客の心をつかみ、長期的な成長へと繋げることは難しいのが現実です。まさに、ファストファッションが満たせないニーズを老舗の仕立て屋が満たすように、私たちは「人間だからこそ提供できる価値」に焦点を当てるべきなのです。
新潟出張で見えた、Webサイトのクオリティを加速させる「臨場感」
先日、Webサイトのリニューアルのご依頼をいただいた新潟のクライアントのところへ出向き、打ち合わせを行いました。我々の拠点は北海道にあるため、オンラインでの打ち合わせも選択肢にありましたが、迷わずに新潟に行って、対面で顔を合わせようと思っての判断でした。
なぜ私は、飛行機や宿、移動などの多くの時間とお金を費やしてまで、北海道から新潟に行ったのか。それは対面でしか起こり得ない臨場感が、Webサイトのクオリティに影響を与えると信じているからです。昨今、ZoomやGoogle Meetなど、オンライン通話のアプリケーションはとても進化しており、複数人でも実施可能で、かつ全員で同じ画面を見ながら議論をすることができるようになりました。しかし、大きなモニターにデザインの案を表示させ、クライアントの代表や、社員さんも一緒に「ああでもないこうでもない」と意見を繰り広げる時間は、なににも変え難い価値のある時間であり、そこから抽出できる課題やフィードバックは、デザインのクオリティを圧倒的に加速させるファクターとなります。
この「臨場感」とは、単なる音声や映像の情報だけではありません。具体的には、クライアントの表情の変化、声のトーン、沈黙の間、そしてジェスチャーなど、オンラインでは見落としがちな非言語情報全てを指します。オンライン会議では、画面の向こう側の相手の反応を読み取るのが難しいことがありますが、対面ではその場の空気感としてダイレクトに伝わってきます。お客様のちょっとした頷き、資料を見る目の真剣さ、あるいは質問をためらうような間合い。これらは、言葉以上に多くの情報を含んでおり、デザイナーとしてお客様の真意を深く理解するための重要な手がかりとなります。
加えて、対面では「社内の雰囲気」をも肌で感じ取ることができます。社長と社員の関係性、打ち合わせとは別で通常業務を行っている社員同士の会話や、オフィス全体に漂う空気感。代表や周囲との関係性が良好な企業は、同じ空間にいるだけで居心地が良く、その風通しの良さがひしひしと伝わってきます。私が今回訪問した企業では、社長と社員がフランクに接しつつも互いに深いリスペクトが感じられる場面が多々ありました。こうした人間関係の良好さや企業文化のポジティブな側面は、ウェブサイトの「採用情報」や「企業理念」といったページで最も表現したい核となる部分です。
その良好な社風と人間関係を肌で感じ取れたからこそ、当初予定していなかった「社員へのインタビューをホームページの採用情報に追加する」というアイデアが生まれ、実際にそれが反映されました。企業の魅力を伝える上で、数値や言葉だけでは伝えきれない「人」の温かさや、働く環境の良さを視覚的に、そして感情的に訴えることができる。この決定は、まさに臨場感から得られた情報がデザインの意思決定に大きな影響を与えた好例です。
そのような対面での深いコミュニケーションと、そこから得られる多角的な情報を基に制作プロセスを進めることで、結果的に顧客の納得感も増し、Webサイトのクオリティも高く、そして最終的に成果も出やすいものになると強く感じます。
「潜在的な想いを汲み取る」ためのヒアリングのコツ
お客様自身も気づいていないような潜在的なニーズを引き出すことは、Webサイトの真の価値を高める上で非常に重要です。そのために私が意識しているのは、質問の粒度を抽象的なものから具体的なものへと徐々に変えていくことです。
いきなり「会社概要に何を載せたいですか?」と尋ねても、お客様によっては「そもそもホームページに会社概要を載せるべきなのかどうかわからない」と戸惑ってしまうことも少なくありません。だからこそ、まずは大きな視点から問いかけます。
例えば、ヒアリングの冒頭では、次のような抽象度の高い質問から始めます。
- 「どうして今回、Webサイトを作ろう(リニューアルしよう)と思ったのですか?」
- 「このWebサイトを通じて、最終的に何を達成したいですか?」
- 「御社の事業で、最も大切にしている価値は何ですか?」
このような問いから、「若い人材を採用したい」「もっと会社の認知度を向上させたい」「問い合わせを増やして、サービス利用者を拡大したい」など、お客様の真のニーズや課題が明確になってきます。そこから、それぞれのニーズに対して「なぜそう思うのか?」「具体的にどのような層に届けたいのか?」「現状の課題は何か?」「過去に試してうまくいったこと/いかなかったことは何か?」と、さらに深掘りの質問を重ねていきます。たまに「何色が好みですか?」「どんなフォントを使いたいですか?」といった質問をしてしまうデザイナーもいますが、そういった専門的なデザイン要素の決定は、本来プロであるデザイナーの役割です。お客様のビジネスの課題と、それをWebサイトでどう解決していきたいのかを深くヒアリングできれば、具体的なデザインを組み立てる要素は、私たちが責任を持って担当すべきだと考えています。お客様の言葉の奥にある「本当の目的」を探り出すことが、質の高いデザインと成果に繋がるのです。
お客様との「共創」が生み出す価値
私たちの仕事は、単にデザインやウェブサイトを制作することだけではありません。最も大切なのは、お客様のビジネスを深く理解し、その成功に貢献することです。そのためには、お客様との「共創」が不可欠だと考えています。
AIは確かに効率的にデザインを生成し、データ分析を行うことができます。しかし、お客様の潜在的な想いを汲み取り、共感し、共に未来を描くことはできません。これは、AIが「情報」を処理する能力に優れていても、「感情」や「文脈」、そして「人間関係」を構築する能力を持たないからです。
私は、お客様との打ち合わせを非常に大切にしています。可能であれば、オフラインで直接お会いし、会社の雰囲気やお客様の熱意を肌で感じ取るようにしています。リモートワークが普及した今でも、対面で時間を共有することの価値は計り知れません。
デザインの方向性を決める際も、一方的に提案するのではなく、お客様の意見を丁寧に聞き、「一緒に作り上げている」という一体感を大切にしています。デザインが完成してから見せるのではなく、制作途中の段階でイメージを共有することで、「本当に求めているもの」とのズレをなくし、お客様の納得感を高めることができるからです。
「納得感」と「安心感」をデザインする
お客様が納得感を持ってお金を払い、安心してビジネスを私たちに任せてくださる。これこそが、私たちの提供すべき価値だと考えています。そのためには、デザインの意図やお客様のビジネスにどう貢献するのかを丁寧に説明し、納得を促すことが重要です。AIが生成したデザインをただ見せるだけでは、この「納得感」と「安心感」は生まれません。
一緒に作り上げたデザインには、デザイナーとお客さんの両方の想いが込められています。そうして生まれたウェブサイトは、単なる成果物ではなく、お客様のビジネスを拡大していくための「ツール」であり、共に歩む「パートナー」のような存在になるはずです。納品して終わりではなく、その後のビジネスの成長まで見据えて、お客様と伴走していく意識が大切です。

まとめ
もちろん、AIの活用は避けられないし、積極的に取り入れるべきです。見積もり作成や請求書発行といった定型的な作業にAIを活用することで、大幅な効率化が図れます。また、デザインのアイデア出しやバリエーション展開など、AIの力を借りることで、よりクリエイティブな提案が可能になる場面も増えるでしょう。
しかし、忘れてはならないのは、AIはあくまで「ツール」であり、私たち人間の「パートナー」であるということです。最終的な判断を下し、お客様の感情に寄り添い、真の価値を創造するのは、私たち人間です。
AIの技術がどれだけ進歩しても、私たちは「人間」です。パソコンやスマートフォンの画面の中に生きているのではなく、この世界を生きる生身の人間です。人間ならではの感性、共感力、そして創造性こそが、AI時代を生き抜く最大の武器になります。
AIにできないことは何かと考えるのではなく、人間であることの「誇り」を胸に、人間らしさを全面に出して生きていくこと。 これこそが、これからのWebデザイナー・ディレクターに求められる姿勢ではないでしょうか。